金融庁

財務省にノーを突きつけた

 ささやかれる地銀のガバナンス危機に際し、金融庁はついに動きをみせはじめた。
 
 7月13日、金融庁東日本銀行に対し、銀行法に基づく業務改善命令を出した、過剰融資や不要な手数料の請求が横行していたためだ。
 
 東日本銀行は2016年に横浜銀行経営統合し、コンコルディア・フィナンシャルグループを形成「第二地方銀行」に属し、東京を中心に83店舗を展開している。
 
 もともと東日本銀行は茨城の相互銀行だったが、東京に進出したのち、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県に店舗を広域展開する珍しい第二地方銀行となった。
 
 茨城が地元なのに支店数は圧倒的に東京が多いため、同銀行は激烈な競争に巻き込まれ、経営基盤は脆弱だった。
 
 そこで横浜銀行コンコルディアFGを設立することに合意したのだ。
 
 東日本銀行は旧大蔵省とも関係が深く、歴代の頭取は旧大蔵省OBで、一部では「大蔵省銀行」といわれるほどであった。
 
 また横浜銀行も、歴代頭取は旧大蔵省からの天下りであり、この経営統合も官庁主導で進められたとされている。
 
 統合当時の横浜銀行頭取は寺澤辰麿氏だが、彼が東日本銀行頭取の石井道遠氏に救いの手を差し伸べて実現した。
 
 寺澤氏と石井氏はともに旧大蔵省OBかつ元国税庁長官であり、寺澤氏は石井氏の先輩である。
 
 そして、コンコルディアFGの社長は寺澤・横浜銀行頭取、副社長は石井・東日本銀行頭取というかたちで落ち着いた。
 
 つまり、コンコルディアFGは絵に描いたような財務省金融庁天下り先として、OBたちに牛耳られるようになったわけだ。
 
 天下り先確保に汲々とする財務省は、コンコルディアFGの次期社長候補に次官経験者を送り込もうとした。
 
 ところがこれがほころびとなる、旧大蔵省OBであるはずの寺澤・石井両氏が大量の天下りに反発し、寺澤氏の退任、石井氏の社長昇格というかたちで財務省にノーを突きつけたのだ。
 
 財務省の思惑を阻止した点はいいかもしれないが、「天下りの社長が天下りの副社長に禅譲とは何事か」と憤慨したのは森信親金融庁前長官である。
 
 地銀のトップが旧大蔵省OBのたらい回しでは、金融界のガバナンス強化を方針とする金融庁のメンツ丸つぶれだからだ。
 
 このような背景もあり、コンコルディアFGの社長になったのは横浜銀行のプロパー頭取、東日本銀行横浜銀行は、それぞれ旧大蔵省の呪縛からようやく脱却できたわけだ。
 
 金融庁東日本銀行に業務改善命令を出したのは、このような人事が行われた後だ、同行はかねてから経営姿勢が問題視されていたが、これまで「大蔵省銀行」であったためか、かなりのお目こぼしを受けてきたとみられている。
 
 今回の金融庁の強権的な判断は、これからは旧大蔵省のいうことを聞いても無駄で、金融庁にもっと目を向けろというメッセージをはらんでいる。
 
 だが、今後統制力の強化を建て前に、金融庁東日本銀行をはじめとする天下りを行う可能性もあるだろう。
 
 財務省の支配から独立できたとしても、役人による天下りはそうそうなくならないものだ。
週刊現代』2018年8月4日号より